〈ヨーロッパ・バルコニープロジェクト〉と〈たくさんの声明〉について
European Balcony Project(ヨーロッパ・バルコニープロジェクト)の名のもとに、2018年11月10日16時に、ドイツを含めヨーロッパ全土の150の文化施設及び市民グループが、それぞれの言語で、同じ宣言文を読み上げるプロジェクトが決行された。
中心的な舞台となったのは、ヴィーンのブルク劇場や、ハンブルクのタリア劇場などのパブリックスペースで、ベルリンではベルリーナー・アンサンブルを含め6つのバルコニーから声があがった。
読み上げられたのは「この瞬間に、ヨーロッパにいるすべての人間、それがヨーロッパ市民である」という定義に始まる人権宣言。このプロジェクトを提唱したのは、政治学者であるUlrike Guerotや、小説家Robert Menasse(代表作『首都』)、他には演劇や文化メディア、ジェンダー研究などに関わる若手の女性研究者たちからなるチームである。
2018年11月10日16時という設定は、第一次世界大戦終戦と新しい民主主義国家の誕生の呼びかけとなった、1918年11月9日のPhilipp Scheidemannによる国会議事堂バルコニーからの宣誓のみならず、同日16時に、そこからほど近い宮殿前のルストガルテンにて、トラックの荷台の上からスピーカーで新たな社会主義国家ドイツの誕生を呼びかけたカール・リープクネヒトの宣誓も合わせ含めてのことだろう。その意味で、ヨーロッパは、国家と国家、主義と主義同士の集合体なのではなく、人間と人間の集合体なのだという再確認を、100年後の今、ヨーロッパ全土で共有しようというこのプロジェクトは、大きな社会的な使命を持ったパフォーマンスであり、目標達成のための「演劇」である。
このプロジェクトの他にも、ドイツでの劇場を中心とした文化人たちの組織が立ち上げているキャンペーンの一つにErklärung der Vielen(「たくさんの声明」仮訳)があり、こちらも同様に「一つの」声ではなく、「たくさん」の声を挙げるための「自由」を守り抜く意思を、120のドイツ全土の文化施設が確認し、同様に2018年11月9日にイヴェントを行った。現在このキャンペーンに参加する有志グループ・施設・団体は140を超えている。背景として、高まる右翼的、ナショナリズム的発想に、強く意識的に対抗していくという、文化サイドの意志表示がある。
この二つのプロジェクトにおいて、やはり中心的な役割を果たしているのがドイツであることには重要な意味があると思う。EUにおいて常に支配的な役割を経済の論理において発動していたことがこれまで批判的に語られてきたドイツだからこそ、経済の論理で人は結束することはできないことを、叫ぶ責務を担うのがドイツだからだ。ますます重要な役割をドイツの文化・アート・劇場関係者たちは、一層果たしていかねばならない。2019年は、ヨーロッパの仕切り直しの年であり、正念場なのかもしれない。
100年前の1918/19の仕切り直しを文化の論理で過激に実践したダダについても、再度新たな注目をしていくべきだろう。ベルリン州立ギャラリーでの11月グループ展も、100年を介したヨーロッパの民主主義の読み直しという、こうした大きな機運に連動していたに違いない。
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